待ち合わせ場所はありふれたファーストフード店、待ち合わせ時間ギリギリについた僕は「先に着いたから待ってるよ」とメールを送ってきた彼女の姿を、女性が1人で座ってる席を探した。


そして、店内をキョロキョロ見渡す僕を1人の女性の視線が捕まえた、目が合った、探りながら近づく僕、声をかけられる、「りょうたくん?」

今から思えば、人生ととっくに始まっていた思春期の中でほとんどろくに女の子としゃべってこなかった僕は、そうして向かいの席に座った時点でどうなるのか決まっていたのかもしれない。

「あっ、祐美さんで?」
「うん、どうも、こんにちは〜」
「あっどうも、こんにちは、よかったー!すぐに見つかって。」
僕は必死に落ち着いてる振りをした、そして前日必死に考えて携帯にメモした話のネタを順番に使っていった、幸い趣味は同じ、W杯イヤー、経験値ゼロのへたっぴなりに頑張って、短い時間でけっこう打ち解けていったと思う。

そして開場時間を前にして店を出た僕らのアリーナまでの道のり、ちょっとした、僕にとっては大きな事件が起きた。
きっかけは向こうからやってきた散歩されてる小さな犬、話をしながらそれを見る僕ら、そしてそれは街にあふれる当たり前のリアクションだったのだけれど、僕には衝撃的な言葉だった。

「かわいいー」

あぁそうか、その瞬間、これがみんなの言うあれだったのかと思っていた、僕は女の子が使うこの言葉を身近で聞いたのはこれが初めてだったんだ。ただただ嬉しかった。
それだけのことだけどね。

ライブのことはライブのことでまた別の話、終わった後は多くの他のお客さん達と同じようにあれがよかったこれは凄かったなんて言いながらの帰り道、そして彼女は新幹線に乗って遠く大阪の街へ帰っていった。
僕は喜びながら悲しみながら家へ帰る。

まさかまた会えるだなんて思ってもいなかった。

その翌日から僕はまた、授業中の教師をからかうようなくだらない遊びやら、放課後家に帰ってするするゲームやら、そうした暇つぶしをしながら、今まで通りの出演者は男だけの典型的な男子校的高校生活の舞台へと戻っていった。
そのまま時は淡々と過ぎていった、そんな中で、あの頃の僕には想像できるわけが無い出来事が起きたんだ。

一週間ほどたったる日、いつも通りだらだらと部屋でごろごろしていた夜に、いつもメールばかりの僕の携帯からはめったに鳴らない、聞きなれない長さの、着信に設定した音楽がかかり始めた。光る携帯の液晶画面。
「着信、加藤祐美」
唖然とする僕、落ち着こうと、左手を胸に当て、焦って、部屋をぐるぐる一周して、通話ボタンを押した。

「ひさしぶりー、今大丈夫?」
「あぁもちろん、ひさしぶり〜どうしたの?」
「うーん、今度お台場でライブあるやんかー、あれチケットあるんやけどりょーた君行かんかなぁって?」
「えーマジで!?行く行く絶対行く」
「そおーよかった、しかもめちゃいい席のチケットなんだからね〜一番前のブロックなんやから」
「すげえすげえ、なんで!?ホントに俺いってもいいのー?」
「いいよー、朝から並びたいしりょーた君なら暇かなーって、この前楽しかったしさ」
「おーありがとうございますっ」
「どういたしまして、それじゃあよろしくねん」
「うん、よろしく!」
そして、確かそのまま少し世間話をしていたと思う。実は、口では話しながら、その体は、スラムダンクで小暮君が全国行きへの3ポイントを決めた時並みのガッツポーズを部屋の中でしていたんだ。
「じゃあばいばいー」
「ばいばーい」

実はそのライブの日が何の日かと言うと、ワールドカップ勝戦の日、いちサッカーファンとしては当然リアルタイムで見るつもりだったし、周りの友達にもこいつは嬉々として見るだろうと思われていたみたいだった。
だけど、僕の中の優先順位は簡単に覆った。ついでに期末試験直前だったりもしたけど。
最優先事項、祐美さんと行くライブ
   2位、サッカー
   3位、期末試験 以上

そして当日、僕はあからさまに調子に乗っていた、今から思えば全力で蹴飛ばしてやりたいくらいに、思い出すだけで虫唾が走る、そんな一日の始まり。