まずは朝、寝坊して遅刻した、僕が起きて最初に見た物は携帯画面いっぱいに広がる彼女からの着信履歴。


あわてて電話するとその時彼女はもう現場について並んでいた、前の晩に試験直前に一日中遊ぶ理由で親と喧嘩したのは自分のための言い訳にすぎない。

お詫びのお土産を買っていこうにもいまさらそんな朝に店は開いてなく、とりあえずお台場に着いてコンビニで買出しの電話、「それより速く来て」とか言われちゃってさ、馬鹿だよね。駅から全力で走って、列の直前で制汗剤ふきかけまくった。そしてつくなり土下座モード、ごめんなさい!

「いいよいいよ、よかったー来てくれて、ドタキャンされちゃったのかと思ったもん」

あーあ、それなのに僕の女の子に誘われて一緒に来たんだぞと伸びきった鼻は短くなる気配すら見せなかった。
会場はヴィーナスフォートの近くの広大な空き地、その日は夕方からのライブに早くから並ぶのを想定して、主催者側からも最低限の範囲ならビニールシートを引いてのんびり待つ事が許されていた。
そんな中で、僕が来るまでの間に彼女は後ろに並んだ女の子達と仲良くなっていたんだ。
僕はひどい言い方をするよ、その女の子2人組はかなりブス、共感するのはせいぜい僕とタメだってこと位、そんなんほっといて僕は彼女ともっと話をしていたいはずだった。

それなのにグッズを買いに行くのに誘われて、
「私はいいよ、荷物見てるから、若者同士で行ってらっしゃーい」
とか言った彼女を置いて、歩き出してすぐその2人に「置いてっちゃっていいの?」と聴かれたのに、
「別に、全然大丈夫だよ」とか言っちゃって、そのまま何故だか僕は3人で行ってしまった。売り場は混雑していて、彼女を7月の炎天下に一時間ちょいはほっといたはずだ。お前は何様なんだ。
それでもまぁなんやかんやで帰ってきて、そのまままたシートに座ってみんなでおしゃべり。
あの小一時間なにしてたのかなぁ…。

実は僕の格好もひどいもんだった、今から思えばドコのオタクだよって感じのジーパンに微妙なシャツ一枚、あの頃の僕は人並みの場所で服を買う事すら考えてなかった。

そして、また時間は経ち、その女の子達に場所を見ておいてもらって僕らは昼ごはんに行く事になった。

2人でヴィーナスフォートへと向かう、休日でどの店も混んでいたし、場所を空けてるだけにあまり時間も無かったので、コンビニでおにぎりだけ買って、彼女が好きだったスタバで飲み物を買って帰る事になった。
そういえばスタバに行ったのはあれがはじめてだったんだよなぁ。ちゃっかりおごってもらっちゃったキャラメルマキアート、でも興奮した僕には、味なんて、分からなかったよ。
ただ、僕がひとりでスタバに行くようになったきっかけはこれなんだ。

そして列へ戻る帰り道、人をよけたせいで少し彼女より遅れた僕が、また並ぼうと少し足を速めたときのこと、今でもこの景色を思い出すんだ、ほんと馬鹿。
散々煽っといてこんな話で終わるのもあれなんだけど、しょうがない、よろしく。

そう、その時さ、振り幅が大きくなった僕の左手が微かに彼女の右手に当たった…ような気がしたんだ。
気のせいかと言われればそうかもしれないけど、どうしてもそうじゃなかった気がする、ただ、その直後に彼女の右手は何かを探すように少し動いたんだ、少なくとも僕にはそう見えた、何かを握るように、結果として空気をつかむように、けれども、そのとき僕の左手は、その手をつかもうとはしていなかった、そのままもとの位置へ、怖かったんだ、嫌な顔をされる気がして、そんな事ありえないと思っていたし、僕は自分が嫌いすぎた。そしたら結局この瞬間の映像が頭にこびりついて離れなくなった、それだけ。

ただ、すぐに、なんとか追いついた僕はすぐに向き合って、どうかした?みたいな顔をしたし、彼女も何も無かったように「早く戻らないとね」とまた並んで歩いていった。

なんだよそれ!と言われれば、なんでもないさと言うしかない、
思春期の男の子の思い込みの激しい妄想だねぇ、と言われても言い返すすべは無い、
きっと僕は幼くて、色々深く考えすぎてたんじゃないか、と自分では思いつつ、ただとにかくこれが僕の人生で2度目に女の子と二人っきりで遊んだ日で一番覚えてる事なんです。

その後は、列に帰って、朝から並んだ甲斐もあり最前列に場所をとり、後から来た人が強引に入ろうとして少し揉めたのだけど(彼女の隣にいた女の子が被害者、彼女は果敢にもそのヤンキーカップルみたいのにちゃんと文句を言い、他のお客の助けもあり後ろに追いやった、僕は情けなく観てただけ、まぁ、嫌になる話ももうおしまい)とにかく、始まってしまえば楽しくライブを見て、その終幕に初夏の暗闇に打ち上げられた花火を眺めて、そんな夏の始まりと共に、さようなら。

随分長くなった、まぁ、こんなかんじ。創作じゃない現実のお話は、あっけなく終わるものです。ただこれもまた僕が墓場まで持っていきたくなかった話。
後日談を話すとすれば、お互いサッカーが好きな事もあって、半年に一度くらい連絡とってます。


そういえば、お台場というのはつくづく不思議な街だと思う 東京湾に突き出た島であるからか、人は住んでるのに都内のほかの観光地と比べてダントツで生活感がない、あくまでもみんなが誰かと遊びに行くための街、カップルもファミリーも友達同士もみんなそれぞれの思い出を創りに行くところ。一応僕も僕なりにこんな事もありながらあの街にいくつかの思い出を残してきました、そんなこんなで今でもあの街は、僕の憧れなんです。

みんなもあの街に素敵な思い出がありますか?