幸せな時間が過ぎるのは早かった、駅で待ち合わせして、会場へ行って、かき氷を食べて、花火を見て、周りのみんなと同じ様に歓声をあげて、終わっちゃって、駅に戻って・・・。
正直な話、僕はこの日、ほとんどどんな花火が上がったのか覚えていない、不信がられない程度にちらちら由梨の横顔を見るのに必死だったから。
花火を見上げる由梨の横顔に、僕があらためて何かを思ったのは確かだった。
それでも、人ごみの中で感想なんかを話しつつ、他の多くの客と同じ様に駅まで帰ってきてしまった。
「ばいばーい」
「おー、ばいばい!混んでるから気をつけてなー」
そして当たり前の様に彼女達は帰っていった。門限?ははは。
いつもそうだ、こうやって思いを告げるタイミングを逃したとか言い訳してる、無理矢理手を引っ張っていく勇気は何処にある?
今日一日を振り返りながら乗った帰りの電車で、あの子の住む町はあっちの方かな?なんて1人窓から遠くを眺めていると、由梨からメールが来た。

「もし彼に聞いてよかったら、今日の横田君のメルアド教えてくれない?ちょっと気になるかもしれない☆」

翌日、由梨の他の男への思いに、久々にしてしまった恋の重圧に、人を好きになっている自分に耐えられなくなっていた僕は、それから逃げるように突然電話をしてそのまま告白してしまい、そしてそのままフラれた。
楽しい夏の入り口へ導いてきてくれてありがとうと、感謝の気持ちも伝えられずに。
その夜僕は初めて、自分の部屋でお酒を飲んだ。
あれから幾年かの月日がたち、風のうわさによると、彼女は結婚するそうだ、子供も出来たらしい、おめでとう。
僕はあの夏の君しか知らない、君は平凡な幸せに対する憧れが人一倍強かった気がする、それゆえにその理想と現実の間で葛藤する事があるかもしれない。けれども、ただ、その幸せを守り通して欲しいな。